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J.フロント リテイリングのガバナンス改革

・株価は業績で決まる。業績が伸びる時、株価は上がる蓋然性が高い。その逆もあてはまる。では、コーポレートガバナンスをよくしたら株価は上がるか。この問いはシンプルだが本質的である。

・ガバナンスをよくしたら業績はよくなるのか。一般論でいえば、これは一概に何ともいえない。ガバナンスをよくするとは、何を意味するのか。形を整えても、中身が不十分かもしれない。

・そもそもガバナンスは、企業を守るためのものであって、攻めのガバナンスが機能するには他の要素がいくつもあるので、ガバナンスだけで業績をうんぬんするのは難しいという見方も有力である。

・しかし、財務パフォーマンスの結果である業績をよくしていくことが、ガバナンス改革の究極の目的である。投資家はここに注目する。しかも、目先の利益ではない。中長期の企業価値を創り出す仕組みづくりに、ガバナンスが決定的な役割を果たすはずであるとみている。

・そこで、決定的な役割が果たせるようになっているかを知りたいと思う。ここがガバナンスに対する対話の根幹である。

・2月にJ.フロント リテイリング(JFR)の山本良一社長の話を聴いた。JFRは2007年に大丸と松坂屋が経営統合してできた。2012年にパルコも加わった。最近では、ギンザシックス(GINZA SIX)で新たな事業を強化している。JFRのテーマは、‘暮らしの「あたらしい幸せ」を発明すること’にある。

・山本社長は、年100回ほど投資家とミーティングを持っている。昨年11月にはESGの会社説明会を行って、議論は活発であったという。米国のロサンゼルスに行った時も、ミーティングでの質問はESGから始まった。海外投資家の意識改革も進んでいるということを実感している。

・山本社長の問題意識は、これまで50年のビジネスモデルが通用しなくなっていることにある。現状の延長では経営に限界がある。そこで、次の50年に向けて、非連続な成長曲線を描いていくことが何としても必要であると考えた。そのために、攻めのガバナンスを起爆剤にして、企業の持続性的成長を実現する。これがガバナンス改革の目的であると強調した。

・山本社長は、なぜガバナンス改革に拘ったか。これまで百貨店の現場で、改革はいやというほどやってきたが、それで生きていけるかというと、もはや難しいと感じた。大丸も松坂屋も遡れば、300年、400年の歴史を有し、長く呉服屋としての事業を営んできた。

・その後、百貨店になって100年、これも成り立たなくなっている。そこで、新たな成長を目指すには、経営のフレームワークを変えるしかないと考えた。どう変えるか。その時、ガバナンス改革がチャンスであると発想した。

・何をやるか。まずは取締役会の改革に着手した。戦略を考える場にすべく、報告事項を減らして、議論の時間を全体の2割から6割に拡大した。

・経営戦略について、まだ決めていない段階から議論の俎上に上げ、社外取締役の意見も入れて議論をして、一度持ち帰る。執行サイドは、もう一度検討して案を上げてくる。こうした議論を経て、決議するようにした。

・当日、議論を進めやすいように、社外取締役への事前説明を十分とるようにした。社外取締役の識見も相当問われる。

・ガバナンスそのものをどうするかという議論も重要なので、「ガバナンス委員会」を作った。取締役会が有効に機能するにはどうすべきか、というテーマについて検討し、監査役設置会社から指名委員会等設置会社への移行を決めた。2年前の株主総会でこれを実現した。

・指名委員会型にして、明らかに良かったという。1)執行のスピードが上がった、2)新しいことが協議を経てどんどんできるようになった、3)透明性が高まった。4)責任と権限が明確になった、5)グローバルな対応も分かり易くなった。

・取締役は13名で、うち独立社外が5名、社内8名(うち非執行3名)である。議長は非執行の社内取締役である。社長は執行のトップであり、議長を離れたことにより、やり易くなったという。

・報酬委員会は5名(うち社外3名)である。執行役の評価についてはBSC(バランスコアカード)を活用して4つの視点から評価し、社長と話し合いをもつ。期初に目標を設定し、中間でフォローし、年度末で確定する。

・社長の報酬は、基本報酬+年度ごとの賞与+中長期の達成に見合う株式報酬で構成され、その比率は1:0.6:1である。年度ごとの賞与は、連結利益、EPS、キャッシュフロー、ROEなどをベースに決まる。

・海外IRに行くと、社長は株をどのくらい持っているかと聞かれる。これが少ないと経営に信頼がないとみられる。株主と同じような意味において、結果に責任を持つことが問われているので、その仕組みを作った。

・指名委員会は5名(うち社外3名)では、経営人材、後継者について議論している。経営人材の育成では、早期選抜も取り入れてモニタリングしている。トップのサクセションプランについては、次のトップについて数名挙げて、毎年洗い替えをしている。

・これらの人材については、成長を促すために、新しい役割につけることも図っている。取締役会で報告の機会を作り、人物や業績をみてもらうようにしている。

・社外取締役の5名については、自社の経営課題について、中期的に合致しているかどうかを指名委員会でみてもらい、毎年1人ずつ入れ替えるようなタイミングを考えていく。急に複数の人が交替すると継続性の観点からよくない。社外取締役の適性と、5人のマッチング(組み合わせ)は極めて重要であると強調した。

・取締役会の活性化は、経営人材の強化と軌を一にする。経営改革を担う人材が社内に十分育っていなければ、社外からのスカウトも考える必要がある。社外取締役も、今後の大胆な経営改革に、的確な監督と助言ができなければ用を成さない。

・山本社長は、ESGへの取り組みは経営戦略そのものであるとみている。トップのリーダーシップがカギとなる。ガバナンス改革は新しいビジネスモデル作りのフレームワークを提供する。

・その上で、マネジメントを実行するCEOのパフォーマンスが決定的である。ここの力量が組織能力をどう育て発揮させるかを決める。投資家はこうした組織能力の中身を共有した上で、財務パフォーマンスをみていく。

・JFRのガバナンス改革が、次の新しいビジネスモデル作りに結びつき、有能なCEOは輩出し続けることができるか。次の50年に向けた大胆な戦略遂行に注目したい。

IR部門で働く時のコツ

・統合報告書は、会社が用意するベーシックレポートである。わが社の企業価値創造を統合的に語っているはずである。統合されていなくても、個別の開示情報はホームページにいけば山のようにある。

・ならばそれらの情報を利用すれば十分であって、アナリストの出番は減っていくという見方もある。しかし、そうではない。種々の情報をどう企業価値評価に活かしていくか。そこに独自の代案を出していくのがアナリストである。

・機関投資家は自らその活動を行い、バイサイドアナリストはそれをサポートする。会社は目指す方向を提案して、それに向かってつき進んでいくが、上手くいくかどうかは分からない。投資判断に当たっては、いくつかの代案があると論点が明確になる。

・リスクが読めるような場面もあれば、リスクが不確定ではっきりしないこともある。財務数値に織り込めることもあれば、織り込めないこともある。誰もが同じではなく、分析者によって、異なる見通しが出てくるのが普通である。

・とすると、投資家はまず自らの分析を行ったうえで、アナリストの意見も聴きたくなる。正、反、合とすれば、深い分析レポートに基づくアナリスト3人の意見が少なくとも欲しくなろう。

・マーケットでは、アナリストがカバーしていない会社の方が、潜在的企業価値が株価に織り込まれていないので、αを見出す可能性が高いという見方がある。とすれば、中小型株のカバレッジは上がってくるはずである。上場企業にとっては、どの会社のおいても、自社をフォローするセルサイドアナリストが3人は欲しいはずである。

・しかし、今のマーケットの状況はゲームのルールとして、それがビジネスとしては成り立たない。アナリストが企業価値について深い分析を行っていないから、ビジネスにならないという意見も有力である。そもそも多くのアナリストに深い分析を期待することに無理があり、それだけの力量が十分鍛えられていないという見方も成り立つ。

・ここで大事なことは、現状から物事の成否を判断しないことである。資本市場は厚みのあるマーケットとして多様な投資判断を競う場であり、そのための機能を充実させる方向で、あるべき姿の議論を進めた方がよい。つまり、資産運用業界の価値創造の仕組みをあるべき姿に向けて展開するために、その戦略を実行していくことが必須である。

・アクティブ運用は敗者のゲームなのか。αを出している運用機関は例外なのだろうか。運用機関はアクティブファンドマネジャーをもっと育てていく必要がある。中長期の企業価値創造を見抜く力を一層養い、それをポートフォリオ運用に活かしていけば大いにチャンスはある。

・ベーシックレポートをきちんと書ける若手アナリストを育てることは、さほど難しくない。すでにやり方は分かっており、3年間で10~15本ほど書けば中級レベルに上げる事はできる。今のアナリストはそのくらいの素養は皆持っている。

・何が課題なのか。それはゲームのルールの再構築である。企業は中長期の企業価値創造に邁進する。アナリストはそれを評価するベーシックレポートを量産する。ファンドマネジャーは自ら中長期の企業価値評価を行うべく、バイサイドアナリストと協働したうえで、セルサイドと議論し、企業とエンゲージメントして、さらにアクティブな提言もしていく。

・この下地は、SCC(スチュワードシップコード)、CGC(コーポレートガバナンスコード)、伊藤レポートV1、V2、日本版統合報告書の作成などを通して、ここ数年でかなりできてきている。では、何がカギを握るか。

・ここからは証券会社のトップマネジメント、運用会社のトップマネジメントが一流の人材を育て、それを活用するという新しいビジネスモデルへの転換を実践することである。3年という時間と一定の先行投資を要する。やれば成果が上がることはほぼみえているので、ぜひ大がかりに挑戦してほしい。

・新しいIRは、こうした機関投資家業界、アナリスト業界の変革をサポートするように活動することであろう。中長期の企業価値創造に投資しようという投資家と、その分析をベーシックレポートで実践するアナリストを優遇することである。

・優遇といっても、特別なことではない。限られた時間の中で、意義のある議論をするという点で、ベーシックレポートに挑戦するアナリストに時間をとってほしい。また、そのアウトプットについては、改めて議論の場を設けて、次のレベルアップに向けて切磋琢磨してほしい。

・投資家やアナリストの意見や提言をマネジメントにフィードバックすることで、これがポジティブに働けば、IR担当者としての役割は一段と高まろう。

・若い人にとっては、IR部門は将来に結びつく有力な部署であり、CEO やCFOにとっては、自らの仕事の根幹の1つである。同時に、ファンドマネジャー経験者やアナリスト経験者をプロとして、IR部門に入れて機能強化を図ることも有効であろう。

IR部門に配属された若い人々とは、いつもこんな会話をしている。会社の本質を知るまたとない機会である。自分の会社のことは知っているようで知らない。わが社の企業価値創造とは何か。話せるようで話せない。ここを借り物のことばではなく、自分のことばで話せるようにすることが本物のIR担当者である。

・同時に、CEOやCFOの分身であるから、そのつもりでエンゲージメントしてほしい。かなり無理な注文であるが、そのくらいの気概を持つと仕事が面白くなると話す。そして、ある人は営業に、ある人は工場に、ある人は海外へ、キャリアディベロップメントしていく。

・その時IRにいたということは、限りなく長持ちする情報を得たはずである。わが社の企業価値に関する長持ちする情報である。これを腹に入れてビジネスを実行すれば、将来を嘱望される人材に飛躍できよう。

・実は、アナリストや投資家もこの長持ちする情報をしっかりと腹に入れたいのである。投資価値を判断する時のブレない軸が、ここで形成されるからである。若い新しいアナリストが大いに育ってくれることを期待したい。それを見届けるためにも、現役のアナリストとして、リサーチと中長期のインベストメントは引き続き継続したいと思う。

三菱ケミカルHDのサステナビリティ経営~企業価値向上への実践

・1月に三菱ケミカルホールディングスの小林善光会長の話を聴いた。10年前にKAITEI経営の話を初めて聴いた時のインパクトは極めて大きかった。以来、そのマネジメントを実践し進化させてきた。会社も大きく変貌した。そのカギを改めて理解したい。

・小林会長は企業価値を三軸で捉えている。①MOE(資本効率、経済性のマネジメント)、②MOT(イノベーション創出、技術のマネジメント)、③MOS(環境・社会課題の解決、サステナビリティのマネジメント)である。E(Economy)、T(Technology)、S(Sustainability)をいかにM(Management)するかという意味である。

・経済社会システムは、キャピタリズムからデータイズム(Dataism、デジタル専制主義)に向かっていると認識し、データ経済圏の覇権争いが激化、そこではAIが富に直結する。ますます広がる格差をどう埋めていくかが問われている。

・中国の知識統制、米国の自国ファースト、英国のブリグジットなどの摩擦を通して、①民主主義、②国家主義、③グローバル化は同時に成立しない、というトリレンマが軋みを大きくしている。

・一方で、地球の気候変動への対応は待ったなしである。人類の活動がそれをもたらしているとしても、個の利益との衝突があるので、政治的には必ずしも全体最適に向かわない。

・しかし、個々の企業が企業価値を創造するには、社会的課題(SDGs)のソリューション提供に向けて結びつきを追求することが使命であり、それが長期的価値創造に資するという考えは今や普遍化しつつある。

・それをビジネスにおけるエコシステム(生態系)として捉え、自らのポジションをいかに確立していくか。そのビジネスモデルの構築力が勝負となっている。

・小林会長は、経済を測る尺度についても、①モノを測る、②コトを測る、③ココロを測る、という3つの様態が必要であると強調する。

・三菱ケミカルHDはMOEでみると、この10年で、1)事業を再編し、2)ポートフォリオを入れ替えて、業績を大きく伸ばしてきた。2017年度で売上高3.7兆円、営業利益3800億円、ROE 17.8%まできた。

・MOTでは、1)R&D(内部成長)とM&A(外部成長)のバランス、2)コネクティッドインダストリー(企業と企業、機械と機械、人と人などがデータを介してつながるデジタル新産業)におけるオープンシェアード戦略とクローズド囲い込み戦略の使い分け、3)ベンチャーエコシステムの創出、に力を入れている。

・そこでは、①事業戦略、②研究開発戦略、③知的財産戦略を三位一体として、イノベーションを創り出す。PDCAを強化し、その定量的な進捗管理に向け、R&D、IP(知的財産)、マーケット(新製品、新サービス)、IT化(デジタルトランスフォーメーション、DX)に関するKPIを設定している。

・MOSでは、自然環境の悪化に対して、化学(ケミカル)がソリューションを提供できる領域を追求する。三菱ケミカルとしては、マイクロプラスチック、循環炭素、人工光合成などに取り組んでいる。SDGsとの関連も明確にして、グローバルに展開しようとしている。

・MOSのKPIとして、環境で9項目、健康で7項目、快適性で7項目定めて点数化し、その向上を目指している。2010年度に140点でスタートしたものが、5年後の2015年度には244点へ向上、現在は2020年度を目標にさらにアップを目指している。具体的には、大気系環境負荷の削減、健康管理情報の提供、働きがいのある組織の構築などがテーマである。

・では、MOSミッションの達成率が、MOE(資本効率からみた業績)にどう結びついているのか。また、コーポレートガバナンス改革が3軸マネジメントにどう効果をもたらしているのか。その因果関係の経路は多様であるが、少なくとも業績向上との相関は明確に表れている。

・小林氏は、2007年から社長を努め、4年前に会長に就いた。40歳まで長く研究開発部門にいたが、マネジメントのトップに立った時、企業の総合力もヒトと同じように、心技体で捉えようとした。体は儲け、技はわざ、心はCSR/ESG/SDGsであると考えて、3軸とした。

・化学の会社は何をやっているのか分かりにくい。そこで3軸を通して提供する価値をKAITEKI(快適)と決めた。そして、これらの定量化を図った。

・筆者は、10年来、企業を見る時、3つの軸が大事であると認識し実践してきた。1つ目は市場性で、マーケットがローカルからグローバルへ、いかに拡大していくかをみていく。2つ目は革新性で、イノベーションにどこまで挑戦していくかをみる。そして、3つ目は社会性で、企業として社会にとって不可欠な存在であるべく、社会的課題の解決にいかに取り組んでいるかをみていく。

・企業価値を生み出す仕組みがビジネスモデルであり、その構築が「経営デザイン」である。この経営デザインのフレームワークがKDS(経営デザインシート)であり、今その活用が注目されている。

・小林会長は、三菱ケミカルが創り出す価値がKAITEKI価値であり、それを経済性(儲け)、技術力(イノベーション)、持続性(社会課題の解決)の3つの軸からマネジメントしていくことを実践してきた。

・MOEは1年、MOTは10年、MOSは100年のタイムスパンでみていく。時間軸の違いを意識しながら、そのバランスの中で、カイテキ価値を向上させる。KPIを定量化して、点数を合計して評点しているところがすばらしい。

・これを国単位でみれば、付加価値(GDP)、イノベーション(Dataism)、社会の持続性(SDGs)の追求による国家価値の創造となろう。日本はこの国家価値創造力が落ちている。企業のガバナンス改革が実行されているが、同じように大学(知)のガバナンスや、政官(国のマネジメント)のガバナンスが大いに問われている。

・かつてピーター・ドラッカーは、企業のマネジメントは目的がはっきりしているから分かり易いが、大学や政府、非営利法人は価値基準が多様となるので、その組織マネジメントは難しくなると語った。

・どんな組織においてもリーダーシップが求められる、しかし、うっかりするとポピュリズム(大衆迎合)になり、悪くするとワンマン(独裁)になりかねない。まわりの忖度も蔓延ってくる。組織をいかに統治していくか。小林会長の洞察力と実践は大いに参考にしたい。

アナリストの企業評価~4つの軸のインテグレーション

・企業をどのように分析するのか。さまざまなやり方があってよいが、筆者は、誰もが簡単に共通の軸で分析できる方法を実践している。

・企業の価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。BMが1つの場合もあれば、いくつもの事業を手掛けていれば、BMの数も数多く存在する。複数のBMを有する場合でも、ポートフォリオ全体としてその企業はどのような価値創造を行っているのかという姿を明らかにする必要がある。

・まず、現在のBMを4つの軸で評価する。第1は経営力(マネジメント)である。経営者のビジョン、経営方針、これまでの実績、中期計画の立案の仕方、PDCAのまわし方などである。第2は成長力(イノベーション)である。事業の成長力を高めるために、どんなイノベーションに取り組んでいるか。

・第3は企業の持続性(サステナビリティ)を確保するために、どのようなESGの体制と活動を行っているかをみる。SDGsとの結びつきについても検討する。そして、第4に、業績のリスクマネジメントである。想定外に業績がドスンと落ち込まないように、どのような仕組みを動かしているか。業績変動要因の分析を確実に進める。

・これは現在のBM(BM1)に対する分析である。次に、会社が将来作り上げたいBM(BM2)を明らかにする。BM1がピカピカに輝いている会社もあろうが、多くの会社は課題を抱えており、色あせている場合もある。そこで、BM2を描いていく。すでに明らかになっている場合もあれば、十分描き切れていない場合もある。

・では、BM2 をどう実現していくのか。そのやり方(方策)が戦略である。戦略が価値創造の仕組み作りにとって本当に重要か、新しいBM2の形成にきちんと結びついていくか。こうしたマテリアリティとコネクティビティを定性的に読んでいく。KPIが設定されていれば、それにこしたことはないが、よくあるケースでは単なる目標の細分化になっているので注意を要する。

・これらを踏まえて業績予想を行うが、何年分を予想するのか。短ければ1~2年、長くて3~5年であろう。7~10年というと数値に本当に意味があるのかが問われる。業種によっても中期の長さが異なるので、その特性に合わせていく。

・ここで議論がある。企業価値は将来キャッシュフローの現在価値であるから、DCFをベースに算定しようというやり方がオーソドックスである。現在のファイナンス理論の基本であり、ゲームのルールとなっている。将来は不確定であるが、現時点で数値に織り込めるものはできるだけ入れていく。織り込めないものは、それができるようになったら数値化していくというやり方である。

・しかし、企業経営をみると、まだ数値に織り込めないものも必死で作ろうとしている。それこそが中長期の価値創造の仕組み作りであり、BM2を構成するキャピタル(無形資産)への投資である。その蓋然性を読んでいくのがアナリストの本領である。

・曖昧な評価はできない、難しいというのは簡単である。安易にできるというのも甘い分析となってしまう。BM2とそれを実現するための戦略について、きちんと定性評価していくことが深い分析レポートにとって最も重要なことである。

・その場合、株価評価と企業評価を分けたほうが分析に厚みが出るというのが筆者の主張である。機関投資家は、定量的な株価評価はアナリストに頼らなくても自分で出来るし、自分なりの手法を確実に持っている。いい会社かどうかという企業評価は、見る視点によって意見の分かれるところであり、大いに議論が盛り上がるところである。

・中小型企業200社を調査し、その後の個別企業の分析を踏まえると、企業評価(よい会社、普通の会社、今一歩の会社)と、株価評価(割安、妥当、割高)には次のような傾向がみられた。

・よい会社は全体の10%、普通の会社は75%、今一歩の会社は15%、という構成である。一方、割安は全体の10%、妥当は80%、割高は10%という構成であった。これをクロスしてみると新しい景色がみえてくる。企業の質は刻一刻と変化しており、株価もファンダメンタルを反映しつつ、それ以外の要因によっても変動している。

・中長期の企業価値創造を評価するには、定性評価の仕組みを精緻化することである。機関投資家はすでにいろいろ試みて自社の評価システムを作りつつある。定量評価の方式はすでにはっきりしている。企業サイドにおいても、この両面で大いに議論するエンゲージメントの用意が求められる。

セルサイドアナリストは、これからも価値ある存在として役割を果たすことができるのか。投資の世界においても、AI(人工知能)の活用が活発化する。ファンドマネジャーをサポートするAIはイメージしやすい。いずれファンドマネジャーに代替する本格的AIも登場してこよう。

・AIが得意とする分析手法で、投資リターン(α)を生み出すことができるのであれば、そこはヒトに頼る必要がなくなろう。でも、そのAIファンドマネジャーのフレームワークを作るのはヒトであり、自動学習では織り込めない新しい分析手法はやはりヒトに頼ることになろう。

・中長期の価値創造の仕組みを評価する力が、人よりAIの方が優れてくるとするならば、ここでもヒトのファンドマネジャーはいらなくなるかもしれないが、そんなことはない。頻度では計れない事象は数多い。

・価値創造の仕組み作りにおけるマテリアリティとコネクティビティは多様であって、丹念に対話していく必要がある。経営者の意思決定のプロセスを迫っていくことが大事である。

・アナリストはアクティブ運用におけるパフォーマンス(α)に貢献すべく、運用に役立つ価値ある情報を提供するのが、本来の役割である。

・アナリストもAIは大いに活用すればよい。短期情報の収集整理、公開情報やSNS情報からみえてくる価値評価の源泉や材料にはいち早くアクセスして、使えるものは利用できるようにすることである。

 

アナリストの力量を活かす

・アナリストにとっては、エンゲージメントと共に、アクティビストの素養が必須となろう。企業の経営戦略、財務戦略、資本政策などについて、自分なりの一定の仮説を持って議論することになる。ただし、一方的な決め付けではない。

・経営は生身の人間集団の中で展開される。論理的にはベストの解が、その企業にとって本当にベストかどうか分からない。段階を経る必要があるかもしれないし、今の経営陣には馴染まないかもしれない。しかし、そこを本気で議論しておく必要がある。

・そうすると、機関投資家が同じようなエンゲージメントやアクティビストとしての提案を出してきた時には、互いに問題点が分かっている。場合によっては、ソリューションについても具体策がありうる。ここまでいけばアナリストの力量は一流であり、本物であろう。

・大事なことは、アナリストもファンドマネジャーも自らがプロとしての力量を持つと同時に、チームとして若い人材を育て、チームの組織能力を高めていくマネジメント力を高めることである。このマネジメント力が備わってくると、実は企業の経営者とのエンゲージメントにも厚みが出てくる。

・アナリストの分析力といのは基礎能力の1つであるから、これを身に付けた人にはさまざまの活躍の場がありうる。オーソドックスにはファンドマネジャーになる道がある。しかし、ここでは才能が問われるので、誰もがなれるわけではない。

・アナリストのもう1つの応用先は、インベストメントバンカーになることである。企業の資本政策、財務戦略、経営戦略に関わっていく。M&Aのディールで専門性を発揮することもできよう。ここでも分析力は基礎であって、最も問われるのは営業力と交渉力である。そこに的確なアイディアを提供できればプロとして躍進できる。

・企業のIR部門に入って、IRの担当者となること、あるいは企業のIRをサポートするIRコンサルティング会社で専門性を発揮するという道も有力である。

・アナリストとして外から企業の公開情報を分析してきた経験を活かし、企業の中に入って、投資家やアナリストが求める情報の意味付けを吟味しながら、社内のディスクロジャーを担っていく。そして、エンゲージメントの窓口に立って、外部の意見をマネジメントにフィードバックしていく。

・その場合、意外に難しい壁がある。分かり易くいえば、アナリストの時は、社長やCFOと丁々発止会話ができたが、特定の会社に入って社員となると、そうはいかない。従来のような会話ができなくなることが普通である。立場を弁えながら、ここを乗り越えていく必要がある。

・IRコンサルも、アナリストの時のように自由に意見を言っていればよいというわけにはいかない。その会社のIRに役立つように、社内が動くように提案して実行してもらう必要がある。そのサポートを実務的にも行うことが求められる。

・それはビジネスであるから、あるべき姿とは別に作業を任されることも多い。これらをしっかりこなしながら、IRに改革をもたらすような提案実行力が問われる。そこまでの実力を養わないと、IRコンサルは継続しない。

セルサイドアナリストとバイサイドアナリストは何が違うのか。企業を分析して、その投資価値を判断するという点では同じである。しかし、顧客層が異なる。証券会社に属して幅広い機関投資家を相手にする場合と、特定の運用機関の中で、そこのファンドマネジャーと連携する場合ではニーズが違ってくる。

・この点について、実感としてセルサイドはマネジメントを語り、バイサイドはインベストメントを語るといえよう。セルサイドは、会社のIR担当者とは全く別に、その企業を分析し、投資家に売り歩く。企業の将来性に注目するので、マネジメントの分析が根幹を握るといえる。

・バイサイドは身近なファンドマネジャーを、チームの一員としてサポートする。運用商品によってファンドマネジャーが数多くいる場合もあれば、アナリスト自信が運用の一部を直接担っている場合もある。その意味でバイサイドはファンドマネジャーの一員であるとみてよい。

・セルサイドアナリストは、顧客に何を提供するのか。生の早耳情報を自らの得意客に届けて注文をもらうのも1つの方策であった。バイサイドに対して、彼らの分析を手伝うようなミーティングをセットし、メモやデータの作成、簡単なコメントレポートなどでサポートするのも1つの方策であった。

・しかし、ここからが難しいことであるが、便利屋的なサポート業務に慣れてしまうと、深い分析レポートを書き下ろす力量がなかなか身につかない。一方で、深い分析レポートを書くのには時間を要するので、アウトプットが出にくい。

・ここをどのようにマネージするかが、組織能力を高めることができるかどうかの重要な分かれ目である。やりようはあるが、それには一定の覚悟が必要である。担当企業を分析する時には、厳しい目で組織能力を評価していくが、自分が属する組織になったとたんに、それは難しいというのでは、アナリストの沽券に関わるともいえよう。