ROEの意味を問う
未分類 2014.10.04 (土) 4:55 PM
・投資家が上場企業をみる時、最も注目する指標の1つがROE(自己資本税引利益率)である。ROEが一定水準を超えていないと、投資家からみてその企業は価値創造企業といえない。
・一方、企業からみると、投資家はROEにこだわりすぎではないか。重要な経営指標はいろいろあり、ROEはその1つにすぎないという意見もよく聞く。多くの企業が最も重視している指標は、売上高営業利益率であろう。中期計画の中には必ずといってよいほど表示されている。
・ROEは、売上高税引利益率×総資本回転率×レバレッジ(総資本÷自己資本)に分解できるから、売上高利益率を向上させればROEは上がる。そこで、売上高利益率を上げれば、ROEも向上するので、何ら問題はないだろうといわれる。
・日本企業のROEは低い。米国の15%と比べると日本は5%レベルであった。最近は業績の回復で9%まで戻してきているが、その差はまだまだ大きい。分解してみると、総資本回転率とレバレッジに大きな差はなく、圧倒的な違いは売上高利益率にある。よって、ROEを上げるには、売上高利益率を上げればよいという議論になる。
・理屈はその通りであるが、もっとよく考える必要がある。投資家は決してROE至上主義ではない。もっと経営全体のことを理解したいと思っている。回転率を上げればROEは高まる、レバレッジを上げればROEが高まる、というのは表面上のことで、どういう経営を実際に行っているのか。それぞれの現場ではどのような意味を持っているのかを知りたいと考えている。
・売上高利益率はどのようにして上げるのか。その中身について納得したいと思っている。短期的な結果だけを求めているわけではない。ROEの向上はレバレッジに依存するので、①もっと借金をして投資しろというのか、あるいは、②自社株買いをして株主還元を行い、自己資本を小さくしろというのか、とネガティブに反応する企業もある。それは小手先の財務戦略であって、経営の本質ではないと批判する。
・投資家は小手先の財務戦略でROEを上げてほしいとは思っていない。会社の考え方をよく知りたいのである。その時に、ROE全体の意味を考えずに、売上高営業利益率を上げることを目標にしているといわれても、十分納得することはできないのである。
・ROEよりもROIC(投下資本利益率)が重要であるという考え方もある。その通りであろう。その場合、なぜROICがその企業の経営にとって大事なのか、それをどのように事業の現場で使いこなしているかを知りたいと思う。その上で、ROEとの連携について、会社としての方針を明示してもらえれば理解が進む。
・ROICを社内で使いこなしていくにはまだまだ困難があり、十分馴染んでいないという企業もある。経営の現場にきちんと適用できているか、それが上手く機能しているかが重要である。優れた企業として、例えばオムロンではいくつかのKPIを決めて、それを社内の現場に落とし込んで、事業のパフォーマンスを高めるように活用している。そういうプロセスが投資家にみえてくると、事業計画の内容や戦略の進捗について、より共感できるようになる。
・ROE以上に難しいのが、資本コストである。理屈としての資本コストは分かっても、個々の企業において、それをきちんと事業のベースにおいているかとなると、なかなかそうでもない。しかし、どの会社においても、M&Aを実行する時には必ず資本コストを考えるはずである、そうでないと、買収時の妥当金額に対して、自らの基準を決めることができないはずである。
・資本コストは、株主の立場から言えば、その企業に投資する時の期待収益率である。企業内部においては、当該事業に対する要求収益率である。つまり、いくら儲けたいかかという投資収益率の期待値である。
・ 日本の産業の中で、この考え方を事業にしっかり組み込んでいるのは商社である。商社はインダストリーとして、リスクアセットに対するリターンをどのよう計 測して、事業を推進するかが身についている。かつて商社はトレーディングがメインの仕事であったが、今や投資をして、それに対していくら稼ぐかを本業とし ている。15年を経て、資本コストの考え方が社内に定着している。それでもリスクをとるということは、時に失敗を招く。まさに全体のバランスを、ポートフォリオとしてどうマネージしていくかが問われる。
・東証が表彰している企業価値向上企業は、こうした資本コストやROEをきちんと経営に組み込んで成果を上げている会社を対象にする。そういう会社の方が、持続的に企業価値創造をできる蓋然性(確からしさ)が高いからである。
・では、ROEは何%ならよいのか。高ければ高いほどよいのだろうか。利潤の極大化が望ましいという考え方からは、高いほどよいという答えが出てくる。しかし、企業には良い時も苦しい時もある。そこで、持続的に良好なROEが求められる。基本的な水準としては、ROE8%以上は上げてほしい。資本コストは投資家によっても企業によっても異なるが、現在の金利水準とリスクプレミアムを考えれば、株式の資本コストとして8%は妥当なところであろう。
・ROEについても、米国の平均は15%であるから、最終的には日本も15%を目指してほしい。大事な点として、わが社はなぜROEの目標水準をその数値にするか、ということをよくよく吟味してほしい。ある企業では、ROEの目標を10%としているが、なぜ10%かという問いに対して、2桁くらいあれば十分で、一応達成できそうな水準であるから、という考えであった。それでは不十分で、投資家は納得しない。極大化を目指して、高ければよいということでもない。その企業の考え方をよく知りたい。極大化基準でなく、H.A.サイモン流のいう満足度基準であってもよい。もう一歩踏み込んで、どうしてと問う必要があろう。
・長期的にROEが8%を下回っている企業は、普通の感覚に言い換えれば、赤字企業であるともいえる。日本企業では、赤字になったら経営者の目の色が変わる。社長の責任問題も出てこよう。しかし、赤字か黒字かという判断基準ではなく、もう少し高い目線で判断する必要がある。
・企業が社会的存在として持続的に生きていくには、それに値する価値を提供して、リターンを上げていく。その基準が8%であると捉えれば、8%以下は赤字と同じくらい恥ずかしいということになろう。赤字になると経営者の責任が問われることを考えれば、みな必死になろう。
・日本企業の多くは8%以上のROEを出す力を十分持っている。他社との戦いが厳しいという面もあるが、社内の仕組みを再構築するだけで改善できる余地も大きいと考えられる。そういう意味を込めて、伊藤レポートではROE8% 以上という提言がでてきたものと理解したい。