株主総会をもっと楽しく~バーチャルを活かすには
2021.08.02 (月) 3:46 PM
・上場企業にとって、株主総会は一大イベントである。総会の準備は会社にとって大変である一方、投資家は参加してもさほど楽しくないことが多い。形式的で、事なかれで済ませたい企業の姿勢や、何かと文句を言いたい特定の株主の発言だけでは、確かに面白くない。
・こんなイメージをもっている関係者は多いことと思う。6月は、3月決算の株主総会が数多く催されたが、筆者の場合、同一日と重なって、なかなか出席できなかった企業も多い。
・どうしたら株主総会が楽しくなるか。企業サイドにとっても、総会を実質的に意味のあるものにできるか。コロナ禍にあって、昨年も今年も“来ないでくれ総会”がほとんどであった。
・議案にQRコードで賛成票を投じてくれれば、総会前に大勢は決まってしまう。後は形だけである。会場に10人以下の株主しか来なかったという企業も珍しくない。役員はずらっと並んでいるが、コロナ禍を避けるために20~30分で終わらせることが望ましい、という雰囲気であった。質問がなければ早く終わる。議案に関連した質問以外は受け付ける必要はないので、丁寧に却下すればよい。
・これではいけないというので、リモートの活用が進んだ。総会を株主に限定して、スマホやPCで視聴することができる。これは遠方にいる株主や、出かける手間を避けたい株主にはありがたい。
・しかし、多くの場合議決権は事前に行使することが求められるので、投票はすでに済んでいる。会場に行ってその場で投票する場合でも、賛成の方は挙手を、あるいは拍手を、と言うだけで、数えている風は全くない。なぜなら事前投票で結果はすでに決まっているからである。
・例外的に、そうはいかない総会が毎年何件かある。経営権でもめている会社、不祥事で混乱している会社の場合は、時によって最後の一票まで数える必要がある。
・多くの株主は投票のために会場に行くのではない。経営陣の顔を見ながら話を聞きたいのである。会社の将来について、いろいろ質問してみたいのである。本気で受け止めて、しっかり答えてくれる会社に対しては、ますます信頼をおくことになろう。
・ところが、どの企業も課題を抱えている。顧客に製品やサービスで迷惑をかけた。社員、組合や取引先と係争が起きている。特殊な個人株主が自己都合の主張をしている。アクティビストが経営の本質をついて、戦略の抜本的変更を求めている。
・これらをきちんと受け止められる社長は大物である。そうでない経営陣は逃げ腰になって、法的ルールは守りながら、うまくかわそうとする。これがみている株主には分かってしまう。こうしたやりとりばかりになると、総会は面白くない。
・では、どうしたらよいのか。総会が楽しくなるように、あるべき姿を考えてみよう。バーチャルオンリー株主総会が開催できるように、まず定款を変更しておきたい。定款を変更しなくても、2023年6月までの2年間は所轄大臣の認可を受ければバーチャルオンリーを行うことができる。
・東証の事前調査によると、この6月の総会でリアル(実出席)のみでの開催は1416社(86%)、バーチャル総会の予定が232社(14%)であった。前年が5%であったからリモートを併用するバーチャルは確かに増えている。三井住友信託銀行の調査でも、オンラインを併用した企業は305社で全体の13%、前年の99社から3倍に増えている。そのうち出席型は14社であった。
・バーチャル総会には、参加型(視聴のみで投票は事前)と出席型(ライブで議決権を行使)の2つがある。出席型のバーチャルは、議決権をライブで行使することができる。その場で投票する方が実感が湧こう。
・経営陣の顔を画面でなく、その場で観たいという株主もいるので、ハイブリッド型で開催するのが望ましい。しかし、ビデオを駆使すれば、例えば4Kを活かして、画面を分割し、ライブ感を伝えることは高い品質でできよう。そうなれば会場に行く必要はなくなろう。
・次に、対話(エンゲージメント)のあり方である。リモートでどのように質問を受け付けるか。声で受けるか、チャットで受けるか。その質問のうちどれを採り上げるか。
・会場の場合、挙手を見て、議長が指名する。一定の時間がきたら、質問の受付を止めて、決議に入る。これをバーチャルで、どのようにフェアに行うか。何らかの恣意性が入っているとみられるなら、それは運営のしかたに問題がある。
・企業サイドにも覚悟が求められる。さまざまな質問のうち、答えにくいもの、答えたくないものでも、株主が知りたい項目であれば、フェアに丁寧に説明すべきである。迎合する必要はない。反論すればよいことも多々あろう。カギは幅広く取り上げることである。
・リアルな株主総会だけでも手間とコストがかかるのに、ハイブリットにしたらさらに費用がかかる。そもそも株主はあまり来ないのであるから、そこまでやる必要はない、という考えもあろう。
・これに対して、筆者は、最初に現状の延長線上でコストの議論をしないでほしいと言いたい。適正な株主構成は企業の発展とともに変化していく。中長期の株主を大事にしたいと思えば、リモートで広く直接対話できることは、やはりあるべき姿であろう。
・ホームページに情報をいろいろ載せても、統合報告書を作成しても、紙ベースだけでは中々伝わらない。映像による開示、ライブの導入はますます重要になろう。そこで、次のような方式をぜひ検討してほしい。
・総会の決議を実行する前に、経営陣のメッセージを映像で使えることは必須である。ライブで株主へのエンゲージメントを総会前に実施することである。そのためには、年2回、決算発表の時に、機関投資家だけでなく、株主・個人投資家説明会をライブで行うことである。
・その上で、ハイブリット株主総会を行い、参加型から出席型へ進め、将来はバーチャルオンリー株主総会へ全企業が移行してほしい。これを5年くらいでやってほしいと思うがいかがであろう。
・経営陣は、わが社の経営について自由に語ってほしい。本音で会話してくれると、投資家は楽しくなってくる。企業価値創造に自信を持っている経営者は、自分の言葉で自由に語ることができる。株主の質問にも的確に答え、よいアイデアは取り入れることにもなろう。
・ぜひ株主総会で新しい経営方針を打ち出してほしい。これが本筋である。これからも株主総会に参加して、ぜひ楽しみたいものである。