持続力か瞬発力か~サステナビリティを問う
2021.03.22 (月) 11:37 AM
・経営者は、中長期の業績を重視するか、今期の業績を重視するか。投資家は目先のパフォーマンスを優先するか、中長期のパフォーマンスを重視するか。双方とも、短期も中長期も大事にしたいというのが本音であろうが、現実は偏ることが多い。
・金儲けは手段であって、事業を通して達成したい目標がある。運用を通して社会に貢献したいことがある。あるべき姿であろう。とすれば、建前と本音を使い分けるのではなく、一枚岩にして本筋を進むということが求められる。
・証券アナリストジャーナルの2月号で、「サステナブルファイナンス」が特集された。サステナビリティという言葉は、一般語ではなく、事業や金融資産のマネジメントにおいて、固有語になっている。特集の内容を咀嚼しながら、今後の投資に役立てることを考えてみたい。
・サステナブル経営、サステナブル投資、サステナブルファイナンスは当然結び付いている。持続性(サステナビリティ)を求めるのは、いつの世も同じであるが、新しい意味をもってその活動が実践され、1つの潮流となって動き出している。
・社会の課題を自らの組織のテーマとして捉え、解決に貢献する。それを使命として活動を実践するには、確固たる仕組みが必要である。SDGsを目標にESGを推進することは、どの組織においても今やメガトレンドとなっている。
・企業においては、そのためのサステナブルビジネスモデル(SBM)の確立とその深化が勝負どころとなってきた。社会的価値と経済的の積集合をいかに大きくするか。北川教授(首都大学東京)が提唱するように、それが同心円になればすばらしい。
・しかし、限界もある。解決すべき社会的課題はいくつもあるが、企業の枠を越えていることも多い。この時どうするのか。
・①今の事業活動の範囲にとどめて、できることをやるのか、②事業としては無理なので、慈善活動として応援する姿勢を示すのか、③ハードルが高くても挑戦し、実力を養っていくのか。今、ここが問われている。
・ファイナンスとは、国の財政や企業財務において、単に資金の調達だけではなく、調達、投資、運用、回収までの全体の活動を指す。企業でいえば、その事業はサステナブルか。投資家でいえば、企業の投資先がサステナブル化か見極めて、株式や債券に投資する。銀行でいえば、サステナブルな事業かどうかを判断して融資を行う。
・ここでいうサステナブルは、企業が30年、50年、100年続くように経営基盤をしっかり固めていくという意味合いよりは、もっと固有の対象をイメージしている。
・1)環境(E)でいえば、気候変動に害を及ぼさないように、CO2を削減してカーボンニュートラルを実現する。2)社会(S)でいえば、サプライチェーンの労働条件について、格差をなくし、公正・公平を実現する、という内容である。
・そのために規制を強化し、規則を設けて実施状況を開示させようという動きが、EUで広がっている。経済界にあっては、総論として賛同しても、個別企業の活動を制約するような規制については、できるだけ回避したいという思惑も働こう。
・サステナブル投資では、自社の経済圏をエコシステムと捉えるとして、その外側の社会や環境に害を与える外部不経済は許さないという姿勢が強い。天然資源をタダで使って、排出ガスや廃棄物を外部に出すな、という意味である。
・では、サステナブル投資の内容とはどんなものか。それを個別にいちいち判断するのは大変でバラツキも出る。ここをまとめて、きちんとルール化しようという動きが、EUで先行している。
・何がサステナブルかを分類して規格化する。これをタクソノミーとして明示する。タクソノミーとは分類基準のことで、サステナブル投資のケースでは、持続可能な投資であるかどうかを判断するために用いる。
・企業にとって、ESGの内容をはっきりさせるために、ベンチマークを設定させることも有効である。その上で、企業に開示を義務付け、投資家にもサステナブル投資の内容について開示を義務付ける。
・基準を明確にすることによって、単にSDGsとひもつけて自社の活動を正当化する“やってるふり(ウォッシュ)”を許さないようにする。EUの規制は、理念先行か実践あるのみか、妥当なのかやりすぎなのか。
・EUの政策思考は、常に演繹的理念先行にみえる。それを実践活動までもっていってしまうところがすごい。理念に反論することはなかなか難しい。理念をベースに、先行国、先進企業で実践されるので、不都合で困難であるという反論は遠吠えのように聞こえてしまう。
・うっかりすると、日本企業は後追いになる。どんなビジネスゲームにおいても、後追いは常に不利である。最初から仲間に入って、ルール作りの折から意見を述べていないと、フェアな土俵に乗れない。
・2050年までに温暖化ガスの排出ゼロを実現せよ、というグリーンティールのハードルは高い。再生エネルギーの投資に拍車がかかるが、例えば石炭産業は衰退し、石炭の街は荒廃していく。負の産業をどのように退出させるのか。ここには産業政策が必要であり、移行期(トランジション)の対応が必要である。
・グリーンビジネスに挑戦する一方、ダークビジネスからは撤退する必要がある。企業によっては存続が難しくなる。事業ポートフォリオの入れ替えが急務となっている。
・社会、環境へのインパクトを優先させるインパクト投資は、それが意味あるとしても、ビジネスとして成り立つのか、収益性を確保し継続できるのか。障がい者の教育のように補助や寄付を前提にしたものもある。
・企業内の仕組みとしては、ESG委員会、SDGs委員会、サステナブル委員会を立ち上げて、社内の各層からメンバーを募った上で議論を進め、最終的に取締役会が意思決定していくようになると推進力が高まる。その時、社外取締役の果たす役割が重要になるという見方が有力にある。
・最も重要なことは、通常のビジネスモデルの中に、サステナビリティ経営を組み込んでいくことである。その上で、サステナブルファイナンスを実践していく。
・投資家の視点としては、サステナブル投資を定性的、定量的に評価していく。サステナブルビジネスモデル(SBM)を定性評価するとともに、SBMが生み出すアウトカムを定量評価する。その上で、パフォーマンスをみていく。
・その時、1)サステナブル投資の独自性に関するインベンション(発見)、2)サステナビリティを実現するためのイノベーション(革新)、3)サステナビリティを取り入れたバリュークリエーション(価値創造)、4)具体的マネタイゼーション(キャッシュフロー)の各ステージがありうる。
・どのステージで参加していくか。投資態度によって戦略は異なろう。変化への対応に瞬発力は必須であるが、同時に新しいビジネスモデルを構築して、サステナブル投資による価値創造をぜひとも実践にしたい。