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KDS(経営デザインシート)の活用~未来の価値創造に向けて

   2019.03.25 (月) 10:14 AM

・KDS(経営デザインシート)とは何か。これからの経営をデザインするためのフレームワークを1枚のシートにまとめたものである。これからの経営とは、将来の価値を生み出す仕組みづくりで、その設計図を可視化(見える化)したワークシートである。

・そんな便利なものがあるのか。すぐに知りたい、使ってみたい、効果は出るのか、などいろいろな反応が出てこよう。ところが、KDSに関する内閣府のレポートを読んで、関係者の話を聴いて、実際にやってみようとすると、そう簡単にはいかない。

・何事もそうであるが、すぐに上手くいくものではない。まず使ってみる。試行錯誤して慣れていく。思考回路と文章による表現が結びついてくると分かった気になってくる。このあたりからが勝負である。

・価値創造のメカニズムがしっかり組み立てられていなければ、それを表現するのは難しい。表現がうまくいかないということは、多くの場合、価値創造の仕組み作りが十分でないともいえる。

・同じ会社や組織にいても、個々人の立場や考えによって、デザインの見方が異なる。当然、価値創造の仕組みであるビジネスモデル(BM)に対する認識も違ってくる。まして、ステークホルダーとして外部からBMをみる時には、自らの理解不足によって、BMがうまく認識できないかもしれない。

・同じ業種(セクター)に属していても、会社の個性は異なる。まして、業種を超えて、BMのよしあしを比較しようとすると、もっと難しい。現在のBMにおいてそうなのだから、これから作り上げようとしている将来のBMについて理解を深めたいと思う時、困難さが増してこよう。

・KDSを企業サイドではどのように作っていったらよいのか。投資家としては、それをどのように活用するのか。こうした点について、セミナーに参加し、議論する機会が何度かあった。オリジナルなレポートは、内閣府知的財産戦略本部の『「経営デザインシート」について~経営をデザインする』という項目を検索してもらえばすぐに見つけられる。

・KDSに書き込む項目は、極めて一般的で、何も難しくないようにみえる。1)会社の企業理念/事業コンセプトをかく、2)これまでの価値創造メカニズムをかく、3)これからの価値創造メカニズムをかく、4)‘これまで’から‘これから’へ移行するための戦略についてかく。この4項目がポイントである。

・大事なことが3つある。1つは、これまでの価値創造の仕組み(BM1)をきちんと認識できているか。自分の会社のことは知っているようで、意外にわかっていないことも多い。

・2つ目は、これからの価値創造のしくみ(BM2)について、それがきちんと描けているか。まだ描ききれず、途中の会社も多い。

・3つ目として、一応、将来実現したいBM2が描けたとして、それをどのように達成するのか。その戦略、やり方が十分練れているか。思いだけでは実現できない。

・戦略を立てようとすると、そこに壁がある。戦略はあっても、自社にそのための経営資源がなければ、実行できない。限られた経営資源の中でやり方を考えていく。それで、将来がみえてくればよいが、経営資源の制約に負けてしまうかもしれない。

・そうすると、将来のBM2を構築するためには、何が最も大事なのか(マテリアリティ)を明確にして、その能力を高めるように準備する必要がある。次に、どのように組み立てていくのか。そのつなぎ方(コネクティビティ)がカギとなる。これがすっきり見えてくると、ストーリーとして腹に入ってくる。このストーリーが大事である。

・アナリストの分析にとって、KDSのフレームワークは基本である。私も長年取り組んできたので、身についているはずである。でも、1枚のシートにまとめたことはなかった。自分なりに考えたマテコネ(マテリアリティとコネクティビティ)はストーリーにしていたが、それで十分といえないことが多かった。

・実際に作業してみた。まずオムロンについてKDSを埋めてみた。統合報告書を読みながら、KDSの項目に当てはまりそうな内容をまとめていく。オムロンについては投資家というスタンスである。ここ数年、統合報告書を読み、会社説明会にも参加してきた。

・しかし、オムロンについて、アナリストとしてベーシックレポートを書いたことはない。KDSに書き込んでみると、シートの右側、これからのビジネスモデルに圧倒的に関心があり、そのための戦略を詳しく知りたいと思っていることがわかる。当然であろう。

・ここで問題がはっきりしてくる。1)埋めてはみたものの、十分腹落ちしていないところがある。2)それは、自分の理解が不十分なのか。3)会社サイドが十分書き込んでいないのか。ここをつめていく必要がある。より知りたいこと(項目)がはっきりしたという点で、意義はある。

・次に、アナリストとして、ベーシックレポートを書いている企業を取り上げてみた。カラオケのまねきねこと、女性専用のフィットネスのカーブスを事業とするコシダカホールディングスについて、KDSを書き込んでみた。ここでも、右サイドのBM2にフォーカスが当たっている。投資家としては、将来を知りたいからである。

・コシダカは中長期の経営方針は立てているが、いわゆる中期3カ年計画のようなものは公表していない。成長企業としてフレキシブルに手を打っていくため、計画にしばられたくないと考えている。

・そうすると、KDSを埋めてみて分かることは、会社がまだ具体的な戦略を公表していないので、将来のBM2の実現性について、その蓋然性を現状の組織能力と全体的な戦略から判断するしかない。その読みがアナリストの力量ともいえる。

・ここでも、自分なりのマテコネは作り上げているが、それに基づく予測については、不確実な部分もある。その点について、会社と対話している。アナリストとしては、秘密の情報を知りたいわけではなく、BM2を支えるマテコネの材料について、マネジメントと議論したいのである。

・KDSは使える。経営サイドがこれを使って、BMに磨きをかけ、このフォーマットで議論に乗ってくれるならば、投資家は横比較がやりやすくなる。

・企業サイドは、KDSを埋めなくても、それに匹敵することは社内で十分検討している、というかもしれない。しかし、ネガティブにならずに、虚心坦懐にさまざまなレベルでKDSを実践してほしい。そして、それを戦略に練り上げて、統合報告を通して見える化に取り組んでほしい。

・投資家もKDSに沿って会社の理解を深めていく。対話を通して、議論が盛り上がってくれば、中長期の価値創造に互いに役立つことになろう。これからKDSはますます進化を遂げ、実践の輪が広がることになろう。今後への期待は大きい。

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