働き方改革~ROICと生産性の結びつきはいかに
2018.11.26 (月) 1:25 PM
・働き方改革が盛んに叫ばれている。高齢化が現実化する中で、人手不足が顕在化してきた。少し前までは、外国人労働者を入れることに慎重であった政策が、緩和の方向に向かおうとしている。
・外国人を入れるということは、日本で生活するのであるから、労働者としてだけではなく、生活者として受け入れていく必要がある。彼ら彼女たちが、日本で差別を受けないようにしなくてはならない。オリンピックの選手のように、身の回りの外国人に分け隔てなく接することが大切である。
・高齢者にも働いてもらうようになる。元気ならいつまでも働いてほしいが、それを受け入れる気持ちと体制はできているのだろうか。元気な高齢者と一緒に働く時には、よほど注意する必要がある。
・高齢者は、安く使える、いいところだけ使えばよい、いつでも切れる、命令して使い倒せばよい、というような風潮でなければよいが、ここでも1人1人の接し方が問われる。
・そもそも人手が足らないとは、どういうことか。1)今までと同じ仕事をやってもらおうとした時に、人が集まらない、2)今までは黙って仕事に就いていた人が、さっさと辞めていくようになってきた、などいくつかの側面があろう。
・パート・アルバイトが集まらない。人手が足らないので、とりあえず正社員を応援に出していたら、コストが高くて採算が合わず、その正社員も自分の仕事ではないと逃げ出したくなっている。
・例えば、時給750円が今や1000円になっている時、これから時給2000円になると考えたら、そのビジネスはやっていけるだろうか。パート・アルバイトに頼っていて、そのコストが上がってきて、採算がとれなくなるような事業は存続が難しくなろう。
・今や人の取り合いがおきている。あるサービス業のトップは、人材を引き付けるには、会社を魅力あるものにするしかない、と宣言している。顧客満足は大事であるが、同じくらい社員満足を重視する時代に入ってきた。
・社員は仕事が面白くなかったり、尊敬できる経営者がいなかったりしたら、さっさと転職を考える。経営の仕組みが旧態依然としていると、今時はすぐにパワハラ、セクハラ、差別ということになりかねない。
・会社が価値を生み、仕事が社会に役立って面白いと実感できる会社にしないと、よい社員は集まってこない。人材を人件費としてのコストとしてしか見ない会社は、安い方がよい、使い倒せばよいという風潮がにじんでいる。
・すぐに替わりがいる時代ならよかったが、今やそうはいかない。ここに外国人を入れて埋め合わせしようとしても、多分すぐにそっぽを向かれよう。なぜなら、まわりに人を大切にする会社があったら評判はすぐに広がり、自社の不評はもっと広がるからである。
・では、どんな会社がよい会社なのか。投資家として会社を見る時には、①雇用を増やしている会社、②1人当たり付加価値(労働生産性)を上げている会社、がよい会社の有力候補となろう。
・1人当たり付加価値は上がって初めて、働く人々の報酬も正当に上がっていく。その時、成果に見合って報酬が支払われるインセンティブが機能しているかどうかは、決定的に重要である。
・労働生産性は、付加価値/社員数 = 1人当たり付加価値 =(付加価値/投下資本)×(投下資本/社員数)となる。その意味は、社員1人当たりに対して、どれだけ投下資本を高めているか。その上で、投下資本がどれだけの付加価値を生んでいるかという投下資本生産性を問う。
・ROIC(投下資本利益率)は、(付加価値/投下資本)×(利益/付加価値)と分解できるから、ROICと労働生産性は、投下資本付加価値率のところで結びつく。つまり、付加価値率を高めた上で、その配分を問うことが重要である。
・では、付加価値率を高めるにはどうしたらよいのであろうか。何よりも知的資本の生産性が問われるので、知的資本を活かして提供するサービスの価値を高めることである。
・この時、提供者の論理ではなく、サービスを受けとる顧客の価値判断が第一義的に大切である。商品を提供しても、顧客にとってはそれを使った時の価値が大切で、一度ではなく何度も使うとすれば、その価値は累積的な効果として受けとめられよう。
・商品は在庫できるが、サービスはその場で消費されるだけで長持ちしない、というのは本当だろうか。実は、サービス価値は累積的に積み上がっていくものであり、サービソロジー(サービス科学)でいうベネフィット遅延型を内包している。
・そのサービス価値を創り出す企業の社員にとっても、価値を一方的に営業し販売するのではなく、価値を生産するために顧客と対話して、協働していくことが本質的なあり方となっている。
・ここの関わりがピンとくれば、社員は創造力をかき立てられ、やる気にスイッチが入ってくる。インセンティブシステムがうまく働くならば、仕事が面白くなってこよう。
・ビジネスモデルとは、企業価値を創り出す仕組みである。それを財務的にみる時には、ROICと労働生産性をしっかり結び付けて、その連動がうまく働いて、互いにプラスの方向に向かっているかをたえず確認したい。まさにヒューマンキャピタルが生み出すアウトカム(結果)に注目したい。