フィンテックと仮想通貨
2018.04.15 (日) 11:26 AM
・3月に東大で、2017年度フィンテック研究フォーラム公開シンポジウムが催された。テーマは「仮想通貨・フィンテックの未来」であった。その中の議論で興味深かった点について、いくつか取り上げてみたい。
・フィンテックは、家計や企業間を仲介する金融業の機能を、新しいテクノロジーを用いて代替したり、新しい機能を加えたりしようとする。特定の機能に特化して、付加価値の高いサービスや低コストのサービスを提供しようとする。
・そこにITを活用する。インターネットをベースに、AI、BD(ビッグデータ)、VC(仮想通貨)、BC(ブロックチェーン)などを組み込もうとしている。預金、モバイル送金、仮想通貨、投資、保険、決済、融資などの分野で独自のサービスを競っている。
・金融仲介機能をアンハンドリングし、リバンドリングして、より広い範囲の顧客に新しいサービスを提供する。従来の金融機関にとっては自らの領域が浸食されてくるので、そこにどう対応していくかが問われる。
・新しいサービス機能に特化した新興企業が続々と台頭してくる。彼らは本当に信頼できるのか。お金に関わるサービスへの信頼は、それなりの手を打ったつもりでも、手抜かりを見透かされて、すぐに破られてしまうことも多い。
・信頼できないところにお金を預けたり、流通させたり、投資した顧客は、本来のサービスが受けられないどころか、元のお金が戻ってこないということも起こりうる。企業サイドは、信用を一気に失うことにもなりかねない。
・金融に関わる規制当局も、新しい分野だけに規制作りが間に合わないことも多い。勃興期の企業は、既存の規制をかいくぐって、新しいサービスを伸ばそうとする。国内だけでなく海外の規制も絡んでくる。
・内外の取引において不正を働いていないといっても、多くの顧客に大きな損失が発生すれば、当然、取締の対象として責任を追求される。個人情報の保護、情報セキュリティの確保、マネーロンダリングはもちろん、VC(仮想通貨)をどのように規制するかも喫緊の課題である。
・VCにはさまざまなものがあるが、VCのユーザーとなるには、まずネットワーク上に自分のウォレットを作成する。このウォレット間でVCの移転が可能となる。VCの全取引はBC(ネット上で共有される電子台帳)に記録される。
・採掘(マイニング)とよばれる取引の認証を行った者は、その報酬としてVCがシステム的に新規に発行される。VCを入手するには、採掘を行うか、交換所(取引所のようなところ)を通して購入するか、他者からの移転によって手に入れるか、による。
・日本では、昨年4月に改正資金決済法が施行された。1)仮想通貨と法定通貨の交換業者に登録制が導入され、2)利用者が預託した金銭や仮想通貨の分別管理がルール化され、3)マネロン対策として、口座開設時の本人確認が義務付けられている。これらは、株式取引では当たり前のことである。
・VC(仮想通貨)の価格変動は激しい。代表的なビットコインの価格は、2013年の前半には100~200ドルであったものが、その年の年末には1000ドルを超えた。その後、2015年の前半までに200~300ドルに下がったが、2017年の春には1200ドルを超えた。
・その後が凄まじい。2017年の年末に向けて2万ドルに近づいた。その後は再び急落し、1万ドルを割って6000ドルまで下落した。それでも昨年の9~10月には5000ドル以下であったから、それよりは高い水準にある。
・火が付くとすぐに10倍、20倍になり、不正、不祥事、規制の話が出るとすぐに半値以下に下がる。よくいえばダイナミックな変化であるが、思惑だけの異常なボラティリティをみせている。上がるから面白いという人もいれば、すぐに痛い目に合う人も出てくる。
・日本仮想通貨交換業協会のデータによると、VCの取引額(主要5通貨ベース)は、2014年度26億円、2015年度877億円(前年度比34倍)、2016年度3兆5159億円(同40倍)、2017年度69兆円(同20倍)と急拡大した。
・利用者は延べ350万人、20~40歳代が9割、証拠金や先物取引が8割であった。実際の入金額は、2016年度510億円、2017年度1兆9173億円(同38倍)で、VCの価格が急騰した昨年12月だけで1兆1714億円と、1年度分の6割が1か月で入った。
・VCの上位10社を3月の時価総額でみると、Bitcoin、Ethereum、Ripple、BitcoinCash、Litecoin、NEO、Cardano、Stellar、IOTA、EOS、Monero、Dashの順である。これまでビットコインが圧倒的な存在であったが、ICO(イニシャル コイン オファリング)が台頭するとともに、イーサリアムがのし上がってきた。
・ICOとは、企業などが電子的にトークン(証票)を発行して、一般公衆からファイナンスを行う行為である。IPO(イニシャル パブリック オファリング)は、金融商品取引法などの既存の法制度のもとで、株式を発行してファイナンスを行うものである。しかし、ICOは似て非なるものである。既存の法制度にひっかからないように動いており、全く異なる。
・そうはいっても、トークンとしての流通性が問われるので、イーサリアムが利用されるようになった。これは、一定標準(ERC-20 Token Standard)に準拠したトークンなので、これが広まった。2017年のICOは210件、3880百万ドルと、2016年の46件、96百万ドルに比べて大幅に増大した。
・では、何のために資金を集めたのか。その半数以上の組織は、未だに何らプロダクトが存在しないという。トークンは、証券に相当するのか。そもそも相当しないなら、金を集めて何もしなくてよいのか。もし証券に類するものなら、ほぼ詐欺になってしまう。
・そこで、各国の当局はそれぞれの立場でICOを規制しようとしている。中国はいち早く、全面禁止にした。VCは上がれば儲かる。まわりに儲かった人が何人も出現している。自分もやってみよう、ICOでトークンを手に入れればもっと儲かる、と考えた人が急増した。
・そんなことがあるはずもないのに、ブームとなった。日本のコインチェック事件は何だったのか。コインチェック社のVCの管理が急成長に追い付かず、いい加減なものであった。そのため顧客から預かったVCネムが盗まれてしまった。
・ネム580億円分が自社のウォレットから秘密カギを勝手に使われて引き出された。秘密カギは外部からの攻撃にさらされて解読されてしまった。送金は別のアドレスになされた後、さらに動かされているので、追跡して取り戻すことが困難となった。
・VCを取り扱う新興企業は、何人かの優れたエンジニアでVCをビジネスにする仕組みを作ってスタートさせた。丁度ブームに乗って爆発的な取引量の拡大を取り込んだ。そもそも設計思想、仕組み、セキュリティ、法的な守りなどがついていかなかったので、外部からの攻撃に負けてしまったといえよう。
・これをどう考えるか。VCそのものが未熟な証左でもあり、イノベーションの勃興期には現実の方がルールよりも先行してしまい、そこに犠牲者も出てくる。投機、不正、詐欺も横行する。
・VCの革新的な面に注目しても、中央銀行や国家と対峙する領域が出てくる。新しい規制とのせめぎ合いは強まろう。VCの交換業者がますます増えてくる。どのサービスをいかに信頼するか。欲に目がくらんで、泣きっ面にならないように、くれぐれも注意したいものである。