ホーム > ブログ一覧 > 価値向上のための対話~アナリストの役割

価値向上のための対話~アナリストの役割

   2017.08.27 (日) 2:00 PM

・「企業・投資家・証券アナリスト 価値向上のための対話」という本が日本証券アナリスト協会編で出版された。14人の共著で、私も1章書いたが、自分以外のところを読んで、改めて感じた点について、いくつか述べたい。

・コーポポレートガバナンス・コード(CGC)やスチュワードシップ・コード(SSC)では、コンプライ・オア・エクスプレインという原則主義がとられているが、アナリストはコンプライ・アンド・エクスプレインを求める。つまり、コンプライする(原則に従う)といっても、どのように従っているのか、その説明を聴きたい。

・例えば、取締役会ではどのような議論がなされているのか。社外取締役は、その議論にどのように参画しているのか。経営会議で方針は定まっているのだから、取締役会は単に社外取締役への説明会になっていないか。議論において、社外取締役の監督と助言はどのように活きているのか。別に秘密の内容を聴きたいのではない。会議の実効性について、その材料やヒントを知りたいのである。

・アセットマネジャーがアクティブ運用において、インデックスを上回るリターンを上げられないとすれが、それはなぜか。長期的に負けるとすれば、その運用会社のパフォーマンスは投資家に受け入れられない。運用会社のガバナンスがどうなっているかを根本から問い直す必要があろう。

・これはファンドマネジャー個人の問題ではない。その運用会社の運用プロセス全体が問われる。企業でいえば、企業価値創造のプロセスに問題があることになる。アクティブ運用のビジネスモデルは、α(プラスのリターン)を生み出すことである。本来、これができるはずである。できないとすれば、ビジネスモデルの再構築が必要であろう。

・機関投資家はプロで、個人投資家はアマであるという。必ずしも正しくないが、プロとアマには著しい格差がある。機関投資家は、フィデューシャリーデューティ(信認義務)を守る必要があり、顧客本位の業務運営をやるべし、というのはその通りである。

・そうならば、運用会社の報酬は、コストプラスフィーではなく、パフォーマンスに見合ったフィーにもっと移行すべきであろう。セルサイドアナリストは、その運用会社に分析情報を提供しているが、本当に役立っているのだろうか。運用会社からフィーがとれるだけの価値が自らの分析レポートにあるかどうかが問われている。

・欧州では、運用会社のコストと手数料をはっきりさせ、それを情報開示するように定められた。来年から始まる。運用会社から証券会社へのオーダー(売買の注文)に伴うフィーのうち、いくらがベストエグゼキューション料で、いくらがアナリストの情報料であるかが問われる。厳密には、アナリストの情報料を別立で支払うことになる。

・セルサイドのアナリストレポートはいくらの価値があるのか。そのプライシングが注目される。コストプラスフィー的にいえば、アナリスト1人の総コストが2000万円として、20社を担当しているなら、1社100万円。それを運用機関20社に販売するなら1社5万円のコストなので、価格としては10万円がほしいところである。

・運用会社にすれば、日本株のユニバースを300社として、1社10万円なら3000万円となる。1人では不十分である。正反合からみて、最低3人のアナリストの見方は必要であろう。とすれば、9000万円の情報料が必要になる。これを支払うだろうか。

・証券会社のアナリスト部門にすれば、アナリスト30人をかかえて、600社カバー、1社100万円で、コスト6億円となる。これをカバーできるだろうか。たぶん難しい。もっと稼ぐには、質の高い情報を創って、顧客を増やし、価値に見合った価格で販売する必要がある。そのビジネスモデルが確立できるだろうか。できないところは淘汰されていくことになろう。

・AIやロボットは運用においても調査においても、有能な道具として使われるようになってくる。すでに一部で活用が始まっている。新しい技術はどんどん取り込んでいく必要があろう。その上で、アナリストの分析力、洞察力とは何か。対話はどのレベルで行っていくのか。

・対話(エンゲージメント)に、どこまで関わるのか。1)会社の理解を深めれば十分なのか、2)会社に意見をいうのか、3)会社に改善を要求するのか、4)会社の中に入り込むのか。レベルはいろいろありそうだが、通常のアナリストは互いに意見を述べ合って、気付きを深めるという建設的対話が基本であろう。

・カギはビジネスモデルの理解にあり、それを支える非財務情報をどこまで財務情報に落とし込めるか。ここが腕の見せ所であるが、財務情報に落とし込めないものをどう扱うか。ROICを経営の基本に据えるとして、それは非財務情報とどう結びつくのか。ここのコネクティビティ(つながり)が重要である。

・PBR=ROE×PER。これにROICを入れると、PBR=ROIC×L×PERとなる。Lはレバレッジである。PBRはバランスシートに表れない無形資産を反映し、ROICは事業の収益性そのものである。Lは財務バランスを、PERは利益の成長性を示す。

・会社のビジネスモデルを、これら4つの視点から頑健なものにしてほしい。アナリストはここを議論したい。投資家は自分のポートフォリオのオーナーである。独自のポートフォリオを組み合わせて作ることができる。機関投資家はアクティブ運用で特色を出してほしい。それを支えるセクターアナリスト、ESGアナリスト、ファンドアナリストなどの活躍に大いに期待したい。

Blog Category