取締役会で何を議論するか~投資家からの期待
2016.03.23 (水) 2:43 PM
・3月にデロイトトーマツによるセミナーが催され、その中のパネルディスカッションに参加した。テーマは、“いま、改めて「取締役会の役割」を考える~取締役に期待される役割とは”というものであった。その中で筆者が考えたことをいくつか述べてみたい。
・上場会社の取締役会で何が議論されているのか。当然、外部からは分からない。会社の方針が決定され、重要な戦略が実行に移され、それが業績に反映されてくる。会社が公表した内容や結果としての業績を知ることはできるが、取締役会の実態はわからない。
・そんなことまで外部の投資家がいちいち詮索する必要はない。しっかりした方針と実績で示せば十分である。もし実績が不十分ならばそれまでのことである、という見方もあろう。しかし、株主や投資家として、それで納得することは難しい。
・会社は、企業価値を創造していく。その仕組みがビジネスモデルであり、投資家はこの価値創造のプロセスを共有したいと思う。経営の最高意思決定機関である取締役会は、このビジネスモデル(BM)について議論をし、新しい方向を打ち出す。
・どんな会社のBMも盤石というわけにはいかない。経営環境や競争環境は常に変化しており、今まで強みであったBMも、そのままでは色あせてしまうかもしれない。そこで、BMの補強をしたり、次世代の新しいBMを構築したり、通用しなくなったBMから撤退したりなど、かなり大胆な決断が求められよう。
・社長以下執行サイドのマネジメントは、経営会議や執行役員会などで実質的な議論を行い、戦略と戦術を定めている。取締役会でまた同じような議論をしても、それは意味がない。社外取締役や社外監査役という外部の目を通して、マネジメントの遂行を監督し、監査し、必要な助言を行っていくことが重要である。ここが本当に機能しているかを知りたい。
・会社としては、重要な意思決定について、どのように考えて結論に至ったかを示す必要がある。こと細かに出す必要は全くない。株主や投資家が納得できるように、説明してほしい。もちろん、考え方や見方が異なれば、経営方針や戦略について疑問や異論も出てこよう。途中経過が思わしくない時には不安も増長されてこよう。そういうことも含めて、取締役会がきちんと機能していることを担保してほしい。
・経営執行の最高責任者である社長を誰が取り締まるのか。通常は社長の部下として業務執行を分担する取締役が、何か有事の取締役会において、社長を取り締まるといっても、それは難しい。やはり、社外の目が必要であろう。
・では、社外の目がどれだけ役に立つのであろうか。機関投資家にスチュワードシップコード(SSC)が導入され、上場企業にはコーポレートガバナンスコード(CGC)への対応が義務化された。両者とも真摯に取り組んでスタートを切ったが、1)それが形だけにとどまるのか、2)形に合わせるプロセスにおいて内容を伴ってくるのか、3)初めから魂を込めて改革に当たっているのか、によって今後のありようは異なってこよう。
・投資家から見た時、取締役会で何を議論してほしいか。それはビジネスモデル(BM)を形成する4つの軸について戦略を立て、それを遂行してほしい。1つは、経営者のマネジメント力の強化である。これには構想力とリーダーシップが問われる。
・長期ビジョンと中期計画を確固たるものとし、中期計画は単なる努力目標ではなく、必達のコミットメントであると覚悟すべきである。それを成し遂げるだけの経営力を有しているか。後継社長を決めるに当たっては、十分な仕組みを持っているか。中長期の成果に見合った報酬体系になっているか、を知りたい。
・2つ目は、成長力の強化である。企業は、新たな成長を生み出すイノベーションに挑戦し、それを実現するために手を打っていく。このイノベーション(仕組み革新)を生み出す組織能力が、自律的な進化を遂げるように作ってほしい。
・3つ目は、サステナビリティ(持続性)を支えるESG(環境、社会、統治)の追求である。最も大事なことは、それが企業価値創造にどう結びつくかをよく議論し、実践してほしい。投資家としては、そのストーリーを是非とも知りたい。
・4つ目は、業績の大幅な下方修正を回避し、それをコントロールするリスクマネジメント力の強化である。そのためには、事後的な対応ではなく、先手を打つ仕組み作りが求められる。
・さまざまなステークホールダーがいる中で、その順位を議論するのではなく、企業価値創造への貢献という視点で、統合的に立案し、実行してほしい。消費者が一番、社員が二番、株主は最後という論理ではなく、価値創造へのマテリアリティ(重要性)とコネクティビティ(ストーリーとしての結びつき)の中で、意思決定を展開してほしい。
・そして、KPI(重要経営指標)としては、ROICやROEという財務的な結果としての指標だけでなく、価値創造のプロセスにおけるマテリアリティやコネクティビティの鍵となるKPIをぜひ設定してほしい。
・このようなKPIが示されるならば、投資家は企業価値創造のプロセスを共有することが容易になり、企業に対する中長期投資の信頼が大きく高まることになろう。